形態

 

 雄は全身で緑がかっており、特に頭部は美しいオリーブグリーンで、下尾筒の黄色みが強いのが特徴です。メスは全身で褐色みが強く抑えた色調です。若鳥では腹に縦斑があり、くちばしは黒色です。

オスは全身が緑がかっている。メスは褐色みが強い。若鳥はくちばしが黒く、腹に縦斑がある。
オスは全身が緑がかっている。メスは褐色みが強い。若鳥はくちばしが黒く、腹に縦斑がある。

オガサワラカワラヒワの1年

 

 母島列島では、無人の属島(向島、姉島、妹島、姪島、平島)で4月〜6月頃に繁殖しています。繁殖が終わると若鳥を含む群れが母島にやってきます。母島では集落以南の地域に飛来し、集落や農地、草地、崩壊地などの開けた環境で観察されます。道沿いでは路上に落ちたギンネムやパパイヤの種子を食べる姿などがよく見られます。

 母島では9月頃までよく観察されますが、その後は個体数が減っていきます。冬になると母島ではほとんど姿が見られなくなります。ただし、この時期には母島属島でも観察される数がとても少なくなります。彼らがどこで冬を過ごしているのかは、まだよくわかっていません。

 戦前の古い文献を読むと、「父島では秋になると数百羽の群れが聟島列島から渡ってくる」というようなことが書かれています。彼らは昔から季節により島間を移動をしていたのです。

母島の路上でギンネムの種子をついばむ若鳥。
母島の路上でギンネムの種子をついばむ若鳥。

南硫黄島の個体群

 

 南硫黄島では、標高300m以下の地域でオガサワラカワラヒワが観察されています。南硫黄島は半径約1km、標高916mの急峻な島で、外周を高い崖に囲まれています。このためオガサワラカワラヒワが生活できる場所はとても少なく、繁殖個体数は100羽程度ではないかと推測されています。

 南硫黄島を含む火山列島では、2000年3月に硫黄島で、同年6月に北硫黄島でカワラヒワの群れが見られています。本州から渡ってきたカワラヒワなのかオガサワラカワラヒワなのかは判別されていませんが、もしかしたら南硫黄島の集団が島間移動をしていたのかもしれません。

周囲を崖で囲まれた南硫黄島。オガサワラカワラヒワが生き残る数少ない島の一つ。
周囲を崖で囲まれた南硫黄島。オガサワラカワラヒワが生き残る数少ない島の一つ。

分布

 

 聟島列島は1914年の記録ではこの鳥の主産地であると記録されています。ただし聟島では1931年、媒島では1889年までは観察記録がありますが、その後に記録はありません。

 父島列島は1914年の記録では、この鳥は渡り鳥で夏になると数百羽の大群がやってくると書かれています。おそらく父島や母島から渡来するものと考えられていました。父島では1968まで、兄島では1974年まで記録があります。その後は父島と東島で稀に記録がありますが継続的に観察されることはなく、おそらく母島列島から時々飛来するのだと考えられます。

 母島列島では属島で繁殖し、非繁殖期に母島に渡来することがわかっており、継続的に生息が確認されています。

 火山列島では硫黄島では1930年頃まで、北硫黄島では1932年まで記録があります。北硫黄島では、この当時たくさんいたと記録されています。ただし、その後には2000年にそれぞれの島で観察されているだけで、全く見られなくなってしまいました。南硫黄島では1935年に記録があり、その後調査のたびに観察されています。

 小笠原諸島は第二次世界大戦後、1968年までアメリカ軍に統治されていました。このため、この期間の記録が不足していますが、おそらくこの時期に母島属島と南硫黄島以外の島では繁殖集団が局所絶滅したものと考えられます。


繁殖

 

 オガサワラカワラヒワは乾性低木林の樹上で繁殖します。1990年代には、外来種のトクサバモクマオウやリュウキュウマツ、在来種のアカテツ、ムニンハツバキ、シマシャリンバイなどで営巣が見つかっています。しかし、最近ではトクサバモクマオウでしか営巣が見つかっていません。

 本州のカワラヒワの一腹卵数は3〜6個ですが、オガサワラカワラヒワでは3〜4個です。一方で卵のサイズは本州のカワラヒワよりも大きくなっています。この鳥は小笠原で少産少死型に進化してきたのだと考えられます。

トクサバモクマオウ上で見つかった古巣。
トクサバモクマオウ上で見つかった古巣。

食物

 

 この鳥はほぼ完全に種子食で、昆虫などを食べた記録はほとんどありません。在来植物としてはムニンアオガンピやスベリヒユ、ウラジロエノキ、オガサワラグワ、オオハマボッスなど、外来植物としてはトクサバモクマオウ、ギンネム、パパイヤ、バジル、コトブキギク、ノゲシ、イヌビエ、メヒシバ、スズメノコビエ、オガサワラスズメノヒエ、ソルガム、イヌホオズキ、シマグワ、ジュズサンゴ、アオノリュウゼツラン、パッションフルーツなど、様々な植物を食べている記録があります。

 それぞれの植物が種子をつける季節は限られています。このため、種子食者は多様な種子を食べることで、1年を通して生きていきます。この鳥が島間を移動するのも、種子の豊凶にあわせて移動しているものと考えられます。

 種子食者の鳥でも、子育ての時だけ昆虫などの小動物を使うことが珍しくありません。しかしオガサワラカワラヒワは子育てにも種子を使います。繁殖期には特にムニンアオガンピをよく利用していることが知られています。

ムニンアオガンピの果実。春と秋に結実が見られる。
ムニンアオガンピの果実。春と秋に結実が見られる。

参考文献

 

・生態

鈴木椎司・小林和夫 (1990) 小笠原諸島で観察された カワラヒワ Carduelis sinicaの採餌集団について. 日本鳥学会誌 39: 66–68. 

東京営林局 森林管理部(1996) オガサワラカワラヒワ希少野生動植物種保護管理対策.

Nakamura H (1997) Ecological Adaptations of the Oriental Greenfinch Carduelis sinica on the Ogasawara Islands. Japanese Journal of Ornithology 46: 95–110.

 

・分類

Saitoh T, Sugita N, Someya S, Iwami Y, Kobayashi S, Kamigaichi H, Higuchi A, Asai S, Yamamoto Y & Nishiumi I (2015) DNA barcoding reveals 24 distinct lineages as cryptic bird species candidates in and around the Japanese Archipelago. Molecular Ecology Resources 15: 177–186.

Saitoh T, Kawakami K, Red'kin YA, Nishiumi I, Kim C-H & Kryukov AP (2020) Cryptic Speciation of the Oriental Greenfinch Chloris sinica on Oceanic Islands. Zoological Science 37: 280–294.

 

・分布情報

Kittlitz FH von (1831) Uber die Vogel der Inselgruppe von Boninsima. Memoires presentes a l’Academie Imperiale des Science de St Petersbourg 1: 231–248.

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Seebohm H (1891) On the birds of the Volcano Islands. Ibis 4: 189–192.

東京府小笠原島庁 (1914) 小笠原島ノ概況及森林, 東亜印刷.

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山階芳麿 (1930) 聟島列島の鳥類. 鳥 7: 253–260.

山階芳麿 (1932) 小笠原群島産鳥類の標本. 鳥 7: 253–260.

蓮尾嘉彪 (1970) 小笠原諸島の動物. 東京都(編)続・小笠原諸島自然景観調査報告書, 191–224.

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樋口行雄 (1984) 小笠原諸島の鳥類目録. Strix 3: 73-87.

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鈴木椎司 (1991) 小笠原諸島・母島属島における陸鳥類とくにノスリ・メグロ・カワラヒワの生息状況について. 東京都立大学(編)第2次小笠原諸島自然環境現況調査報告書, 148–157. 

鈴木惟司 (1994) 母島列島におけるオガサワラカワラヒワの生息状況. 日本鳥学会誌 43: 134–135.

時田賢一・渡辺義昭 (2001) 硫黄島鳥類目録. 我孫子市鳥の博物館調査研究報告 9: 35–45.

山階鳥類研究所 (2005) 平成16年度環境省請負調査 平成16年度国指定鳥獣保護区指定に関する調査(火山列島北硫黄島・南硫黄島)報告書.

川上和人・鈴木創・堀越和夫・川口大朗 (2018) 2017年における南硫黄島の鳥類相. 小笠原研究 44: 217–250.